ぬくもり
会社のおばさんが優しい。
他部署の人だけど、よく喫煙所で会って、いつの間にか普通におしゃべりするようになった。
駅まで送ってくれたり、冗談でお土産をおねだりしたときも、本当に買ってきてくれたり、何度か頭を撫でてくれたこともあった。
たぶん、わたしの母さんより少し年上のその人。
なんとなく、すごく甘えたくなる。
あのね、あのねって。
お母さんみたいな、そんな感じがする人。
その人とお話をした後、時々思う。
もっと親に甘えたかった。
子供の頃は、それほど淋しくはなかった。
母さんと上手くやれなかったこと、二人暮しだった父さんとも思うようにやれなかったこと、ひとりの夜も、割と平気だった。
たぶん少しくらいは悲しかったり淋しかったりはしたけれど。
でも、こうして大人になって、本当はたぶんちゃんと淋しかったし、もっとわがままを言ったり、駄々をこねたり、甘えてみたりしたかったんだって、なんとなく、そんな風に。
会社のみんなが家族みたいで。
お兄ちゃんみたいな人達がいて、弟みたいな子がいて、隣の席の人は、おばあちゃんみたいで、お姉ちゃんみたいな人がいて。
大家族だな。ははは。
ーーーーー
仕事中、わたしはいつまでこの人の背中を見ていられるんだろうって、ふと思った。
きっと、思っているよりは短くて、そして長い。
はげ!はげ!って言っていじってくるから、
うるさい老眼って言い返してみたり、
ふたりで わけがわからない って唸り続けてみたり、仕事中なのにふたりで大笑いしたり。
いつだって味方でいてくれるあの人。
いいよ。
なんとも思ってないなら、それはそれでいいよ。
それでもわたし、最後まであんたの一番の犬でいてあげる。
たくさんお手伝いできるように頑張るし、わたし賢くはないけれど誰より一緒に悩んであげる。
会社の誰より一緒に笑ってあげる。
あんたの親父ギャグも、時折見せる子供っぽさにも、ちゃんと付き合ってあげる。
わたしが一番の犬でいるんだ。